悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「時間がないんですよ!明日には舞を披露しないといけないのに!」
ロイの腕の中で私は両手を動かして激しく抗議をする。
するとロイはそんな私を軽々と持ち上げ、どこかへ運び始めた。
「お、下ろしてください!」
どんなに抵抗しても全くロイには響かない。ロイはそのまま私をベッドの上に座らせ、自身も私の横に腰を下ろした。
「完璧な舞なんて披露する必要はないよ。僕はステラの愛らしい舞に惚れているんだから」
ふわりとロイが私の目を覗き込んで天使のように笑う。
「今日はよく頑張っただろう?だから今日はもう休むべきだよ。明日に備えてね」
「…いえ明日披露する舞を少しでも見せられるものにする為には今からでも練習をしなければなりません。私は踊り子ではないんです。素人です。休む暇などありませんよ」
「いいや。休むべきだよ。ステラはそのままでいいのだから。父上も言っていただろう?荒削りであろうとそれがダイヤモンドなら輝きを放つ、と。父上が求めているのは完璧な舞ではなく、ステラの輝きを放つステラだけの舞なんだよ」
「…」
最初こそこの甘くて優しい天使な男に反論をしようとした。
だが、ロイの言葉は的確で私は何も言えなくなってしまった。
「ステラ、君が眠るまでそばに居よう。ほら、目を瞑って」
ロイがそう言って私の瞼を撫で、強制的に瞼を閉じさせる。
「…ロ、ロイさま」
「大丈夫。今日はもうお休み」
何とかロイに抵抗しようとしたが、何故か体に力が入らず、私はロイのなすがままだ。
何故体がこんなにもふわふわしているのだろう。
それだけ疲れているのだろうか。
私はもうこのふわふわとした感覚に抗うことができず、そのまま眠りについた。
「よかった。よく効いたね、これ」
眠りについたステラをロイは愛おしげに見つめて自身の懐に忍ばせていた魔法薬の小瓶に触れた。