冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す

「べ、別に捨ててほしいわけじゃ……ないです」
「そうか。ま、捨てたところで実家に同じものが山ほどあるけどな」
「えっ?」
「あれ、もともとは父が好きなドラマなんだ。一緒に見ているうちに俺もハマって、気が付いたら見るのが趣味になってた」

 自然にそう話していたが、俺が他人に趣味を語るなんて、ずいぶん久しぶりのことだ。

 琴里のことを知りたいのと同じくらい、彼女にも俺のことをもっと知ってほしい。そんな欲求があふれて止まらない。

「そうだったんですね……お父さん、どんな方ですか?」
「もうすぐ定年で引退だが、所轄のベテラン刑事だ。本当は紹介してやりたいが、曲がったことが嫌いな熱血タイプでちょっと面倒くさいんだ。籍を入れていない女性と同居しているなんて知れたら、たぶん説教が飛んでくる」
「じゃあ、鏡太郎さんとは真逆のタイプなんですね」

 琴里が驚いて目を丸くする。

 父の性格について言い出したのは自分だが、それではまるで俺が冷たい人間みたいじゃないかと、少し心外に思う。

「……俺にだって、熱くなる時はある」

 至近距離で告げ、琴里に甘い視線を注ぐ。照れたように目を逸らす彼女を見ていたらもっと困らせたくなって、彼女の耳元に唇を近づけると、「かわいい」と囁いた。

 リンゴのように真っ赤になった彼女が、俺を睨みつける。

「こ、この顔は……甘い言葉に騙されているフリをしているだけですからねっ」
「じゃあ、もっと練習しないとな?」
「いえっ、今日はもう結構です……!」

 慌てて首を横に振る彼女にクスクス笑う。数カ月前の俺が見たら卒倒しそうな溺愛ぶりだが、不思議と恥ずかしいとは思わなかった。

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