冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す

 秋のフェアメニューにはきのこを使ったものが多く、そういえば職場の食堂でも今月から『ヘルシー知能犯・きのこご飯セット』という、またしても口に出して注文しづらいメニューが始まっていたなと、頭の片隅で思う。

 琴里を特別な存在として意識するようになってからは、新メニューにあんなに嫌悪感を示していたのが嘘のように、食堂のポスターが張り替えられるのを心待ちにしている。恋とは恐ろしいものだ。


 食事を終えた後、弓弦くんを家まで送るために歩道でタクシーを待っている時だった。

 どこかで暴走族がバイクを走らせているようなけたたましいエンジン音が鳴っているなと思っていたら、その音を発しているバイクがすぐそばの交差点で信号待ちをしていた。

 運転手はフルフェイスのヘルメットをかぶっており、全身黒づくめ。単独で走っていることもあり暴走族ではなさそうだが、その騒音は明らかに迷惑である。

 警察に通報して注意してもらうかしばし逡巡する。

 しかし、バイク前方の信号が間もなく青に変わり、すぐに走り去ってしまうか……と出しかけたスマホをポケットに戻した直後だった。

 轟音を上げたバイクが道路のラインも進行方向を無視し、猛スピードで俺たちの方向へ向かってきた。

 周囲の車が一様にクラクションを鳴らすも、巧みに避けつつ俺たちの方へ突っ込んでくる。

< 154 / 211 >

この作品をシェア

pagetop