冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
「なっ……なんだ? なにか用か?」
軽く動揺し、女性に怪訝な目を向ける。白い調理着に帽子、マスクをつけた彼女は、よりによって俺が一番苦手とする食堂の若いスタッフだった。
新メニューが出るたびやたらと勧めてくる、お節介な女性だ。
俺はただ決まった料理――木曜日の今日はカツ丼である――を注文してサッと食べ、食べた後は抱えている事件について考えを巡らせたり、こうして息抜きにドラマを観たりしたいのに……。
「今日、野菜を納品してくれる業者さんが大きなスイカを譲ってくださったんです。ですので、お料理を注文してくださった皆さんにサービスでお出ししているんですが、神馬さんにはひと言お聞きしてからの方がいいかなと思いまして」
スイカ。……不本意だが、好物である。
ぜひ、と言いそうになるのをこらえ、一度咳払いした。
「……無駄になっても困るだろう。いただくことにする」
「そうですか! よかった!」
目元しか見えていないのに、彼女が満面の笑みになったのがわかった。そんなに喜ばれるとは思わなくて、妙に気まずい。
「……まさか、毒入りじゃないだろうな?」
あまりの喜びように、ついそんな台詞が口をついて出た。いつもならポンポン言葉を返して来る彼女なのですぐに否定すると思いきや、なぜか物憂げに目を伏せた。
そのままくるりと俺に背を向け、ぽつりと呟く。
「そういう形で復讐しても、きっと気は晴れませんから」
……復讐? いったいなにを言ってるんだ?