冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
物騒な言葉が気になり、厨房へ下がっていく彼女をそのまま目で追う。
しかし、すぐに仕事に戻った彼女の様子はいつも通りで、スイカを持ってきたのも別のスタッフだった。厨房にはいつもやかましい小柄の中年女性がふたりいて、どちらか見分けはつかないが、その片方だ。
「これ、切ったのは琴里ちゃんだからね。甘いよ~」
「小鳥?」
「あらやだ、あんなに熱い視線を送っといて名前も知らなかったのかい? 我らが厨房のマドンナ、村雨琴里ちゃん。まだぴちぴちの二十四歳」
「村雨……琴里」
口にするとなにかが頭の隅に引っかかった。
どこかで見聞きしたことのある名だ。
しかし、最近の事件関係者ではない。過去の事件か?
「そんなに難しい顔して、アンタ結構本気? おばちゃんが取り持ってあげようか?」
女性がグイグイ顔を近づけてくるので集中力がそがれる。
目的のスイカは受け取ったのだから、早く本来の持ち場へ帰ってほしい。
「真剣に考えたいのでひとりにしてください。……村雨琴里。重要人物かもしれない」
そう口にすると女性スタッフは口元を手で押さえ、厨房へと急いで戻っていく。
ようやく解放された……。
ホッと息をつき、サイコロ上に切られたスイカ、そのひとつに刺さったピックに手を伸ばす。口に入れて噛むとしゃくっと瑞々しい音がして、果汁が弾けた。
やっぱり、夏の果物はスイカに限る。
しかし、スイカの味には満足しても、村雨琴里のことがどうにも胸に引っかかり、スッキリしない。
食器を返却口に返す時、その答えを探すように彼女をしばらくじっと観察したものの、なにも閃かなかった。