冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
顔の前で祈るように両手を組み、うっとりした顔をする白浜さん。絶対に誤解してると思うけれど、神馬さんが私を『重要人物』と言っていたのは気になる。
彼のことだから運命の人だなんてロマンチックな意味ではなくて、被疑者とか目撃者とか、事件関係者とか……そういう意味で口にしたのではないのだろうか。
やっぱり、彼が私に近づくのにはなにか思惑が……?
「それで、結局どうなったの、琴里ちゃん!」
紅林さんがずいっと顔を寄せて来たので、思考が遮られる。神馬さんより先に、このふたりの好奇心をどうにかしなくちゃ。
「……カフェに、連れてってもらいました」
「うんうん、それでそれで?」
ふたりからの期待のこもった眼差しが眩しすぎる。
弟の学費を肩代わりする交換条件で、結婚を申し込まれました。なんて正直に言ったら、さらに根掘り葉掘り聞かれて、今日は食堂の営業どころじゃなくなってしまいそうだ。
「他愛のない話をしただけですよ。今度食堂に来るときは、新メニューを頼んでくださるとか、そういう……」
「ええっ? それだけかい! 検事のくせに意気地なしだねぇ」
紅林さんが盛大にがっかりしてため息をつく。なんだか私のせいで評判を落としてしまったようで、神馬さんにちょっと申し訳ない。
「ホントよ。てっきり琴里ちゃんに手錠かけて捕まえちゃうと思ったのに」
「やだわ白浜さん、それじゃ検事じゃなくて刑事よ」
ふたりはけらけらと笑って、それぞれの持ち場に戻っていく。
見当はずれな追及から逃れられてホッとしたところで、私も気を取り直し、仕事の準備を始めた。