冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す

「じゃあね、弓弦。早めに帰るけど、戸締りきちんとしてね」

 助手席の窓を開け、弓弦に声をかける。三人で食事を一緒に済ませた後、先に弓弦だけをアパートに送ったのだ。

 本当なら私も一緒に車を下りるつもりだったのに、神馬さんときたら直前になって『もう少し一緒にいたい』なんて恥ずかしいセリフを口にしたので、無理やりデートする流れになってしまった。

「了解。別に朝帰りでもいーけど?」
「こ、高校生が生意気言わないの……っ」

 飄々としている弟に、私の方が焦ってしまう。助手席で頬を熱くしていると、神馬さんがこちらに身を乗り出し弓弦に呼びかける。

「それじゃ、今日はありがとう弓弦くん。お姉さんを少し借りるね」
「いえ、こちらこそご馳走様でした!」

 すっかり神馬さんを慕っている様子の弓弦は、車が走り出してしばらくしても、アパートの前で深々と頭を下げていた。

「カモフラージュにしてもやりすぎじゃないですか? 弓弦、全然疑ってなかったのに」

 ふたりきりになったところで、神馬さんに問いかける。運転席の彼は弓弦の前にいる時と打って変わって〝スンッ〟とした真顔だ。

「別にカモフラージュじゃない。必要なことを済ませたいだけだ」
「必要なこと?」
「ああ。たとえ嘘でも、きみは俺のものだという印をつけておかなければならないからな」
「しるし……?」

 
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