冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
 心の中で問いかけながらも、オートロックの自動ドアをくぐる。

 私たちの足音だけが響いて聞こえるほど静かなエントランスにはコンシェルジュが立っていて、そこを通り抜けると、エレベーターに乗る。

 神馬さんが三階のボタンを押し、扉が閉まったところで彼の横顔を見上げた。

「怖くはないんですか? 自分が起訴した犯人からの報復とか……」
「……冤罪被害者の家族からの恨みとかな」

 私の考えを見透かしているかのように、ボソッと神馬さんが呟く。

 思わず体をこわばらせると、彼は「例えばの話をしただけだ」と苦笑した。

「まだ、きみという人間を語れるほど共に時間を過ごしたわけじゃないが、例えばそのバッグの中にナイフが入っていたとしても、きみは俺を刺せない。そういう人だと思う」

 まっすぐな視線に射貫かれ、ドキッとした。

 私のこと、そんな風に思っていたの……?

「ど、どうしてですか?」
「さぁな。……ただの勘だ」

 神馬さんが小さく笑うと同時に、エレベーターが三階に到着する。

 私のバッグにはもちろんナイフなんて入っていないけれど、遠回しに牽制されたのだろうか。彼の背中を追いながら、胸がざわめく。

 やがて部屋の前に到着すると、彼がカードキーを使って玄関のドアを開ける。

 とうとう敵地に乗り込むんだ……。

 私はきゅっと唇を噛んで覚悟を決めると、神馬さんの部屋に足を踏み入れた。

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