冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
「別に、家事をしてもらうためにきみと一緒に暮らすわけじゃないんだ。自分の世話は自分でできるから変に気を遣わなくていい」
「気を遣っているわけじゃありません。私がそうしたいんです。他に感謝の気持ちを示す方法もありませんし、家事は得意なので遠慮しないでください」
「……そこまで言うなら。ああ、あそこだ」
私の策略がバレなくてホッとする。
彼の目線を追うと、ゆるやかな坂の途中に上品な低層マンションが見えてくる。そのまま敷地に入り、住民専用の駐車場へと彼が車を止めた。
外に出てみると、都心にありながらも周辺は住宅が多いからか、あまり喧噪を感じない。駐車場やエントランスの周囲に緑が多いのも、爽やかで心地いい。
建物に近づくにつれますます高級感が伝わってきて、ごくりと唾をのむ。
「指輪の予約をした時と同じで、分不相応な所に来てしまった感がすごいです……」
「ここはセキュリティの面で優秀だから選んだだけだ。検事なんかやってると、人に恨まれることも多いからな」
なにげないひと言だったけれど、胸がチクッとした。検事を恨んでいる人が少なくないことは、この身をもって知っている。
私が検事や検察という組織に複雑な思いを抱いていることは神馬さんだって知っているのに、こんなにあっさり自宅に上げていいのだろうか。
私に寝首を掻かれるかもとは想像しなかったのかな……?