私の世界に現れた年下くん

「あの時の川原先輩の言葉がすごい心に響いたんですよね」

名倉くんが懐かしげに呟いた。


「思い出しました?」

「いやちょっと…絵馬はたしかに書いたのは覚えてるけど、」

誰かと、というか名倉くんと話したの?

半年前に会ってたなんて…

びっくりして頭が追いつかない。


「まぁ、そうですよね」

「え、でもそしたら、電車の時に、その時の私だって気づいたってこと?顔覚えてたの?…え、てか、同じ高校に入ってきて、会って気づくってなかなかすごくない?」

「あ、えっと…」

口ごもる名倉くん。

「あ、ごめん、質問ばっか。ちょっと色々びっくりで」

「いや違うんです」

「え?」

「この話にはまだ続きがあって…」

「続き?」

まさかの言葉に、また身構えてしまう。


「こんな知らない中学生を励ましてくれたことがほんとに嬉しかったから、それでこの人がいる高校に行きたい!って思ったんです」

「え、じゃあ同じ高校だったのは偶然じゃないってこと?」

「そうです。鞄にプリントされていた学校のエンブレムに見覚えがあって、検索したら出てきて、ここを受けるって決めて。それで先輩に再会することをモチベーションに受験頑張れました」

そんな…私がモチベーションになってたなんて。

「再会したのは、あの電車の時で合ってる…?」

「はい。入学してから探してはいたんですけど、やっぱり顔をちゃんと覚えてなくて…。絵馬に書いてあった“ゆづき”って名前しか手がかりがなくて、どうしようって思ってた時に、電車で会えたんです」

「顔覚えてなかったのに、分かったの?」

「分かったんです!スマホ拾ってくれた時、御守りを拾ってくれた時と重なって、“あ!この人だ!“って」

すごくないですか?と目をキラキラさせて言う。

「それから教室を回って、川原先輩のクラスを見つけて、なんとかまた話をすることができて」

名倉くんが友達と一緒にクラスに来た時のことを思い出す。

「その後、名前を聞いて、やっぱりそうだって確信しました」

「そうだったんだ」

「彼氏いないって聞いて、先輩とはダメだったのかなって勝手に思っちゃって。それならもっと仲良くなりたいって思ったんです」

「うん…」

「ちょっと躊躇いもあったんですけど、川原先輩が僕に言ってくれた“自分に嘘つかない”って言葉を思い出して、頑張ろうって思えて」


パッと名倉くんが目を上げる。


「川原先輩は僕にとって頑張る源なんです」

名倉くんの言葉が、まっすぐ私の胸に刺さった。


「…ありがとう。頑張る源なんて、そんなこと言われたの初めてだよ」

「お礼を言うのは僕の方です。川原先輩のおかげで、ほんとに色々頑張れてるんです。なのに、さっきは勝手に嫉妬して、強く言っちゃって…」

すみませんでした、と頭を下げた。

「そんな、謝らないで」

慌てて言う。

「話してくれてありがとう」

「いえ、」

「でも、ただちょっと…今頭がパンクしてる。一気に色んなこと聞いて、すごい混乱というか…」

正直に言うと、「そうですよね…」と名倉くんの顔が暗くなった。

「気持ちが迷子だって言ってたのに、余計混乱させてすみません」

「ほんと謝らないで、ちゃんと聞けてよかったよ」

「はい…」

ほんとにありがとうと必死に言っても、名倉くんの顔は暗いまま。

「名倉くんが話してくれたことも含めて、ほんとにちゃんと考えるから、ね?」

「いやもう、はい…大丈夫です」

大丈夫、の意味は分からなかったけど、名倉くんがやっと笑ってくれてホッとした。


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