私の世界に現れた年下くん

真剣なトーンに心臓がドキドキし出して、ごくんと唾を飲んだ。



「先輩は、僕たちが初めて会ったのっていつだと思いますか?」


構えてたら、いきなり質問を投げかけられた。

「えっと、あの時でしょ、私がスマホを拾った、」

「…違います」

「え、違う?」

「実は、それよりも前に会ってるんです」

「え、それより前って…4月の初めとか?」

首を振って、もっと前です、と言った。


え…どういうこと?

もっと前って、でも名倉くんは4月にうちの高校に入ってきて…


「やっぱり覚えてないですよね」

「え…いつ会ってるの?」

「去年の12月です」

そう言って、名倉くんはその時のことを話し始めた。





【名倉くんサイド】


明日の三者面談、憂鬱だな…。

どうせ親と先生が決めた高校を受験するんだから、わざわざ面談なんかしなくていいよなぁ。

受験に対するモチベーションが低すぎる、って親に怒られたけど、どうやって上げればいいのか分からないから、困ってるんじゃん。


学校からの帰り道、僕は1人ため息をついた。

中学3年の12月。

いよいよ高校受験が迫ってきて、明日の三者面談で志望校を決めることになっていた。


家に帰る前になんとなくやって来たのは、この街で有名な神社。

みんな受験祈願とかしてるのかな。

絵馬が掛けられているところまで歩いていき、そっと願い事を覗き見する。

“〇〇高校に合格しますように!”

“〇〇高校絶対合格!”

やっぱり、受験合格の願いが多いなぁ…

みんなどういう気持ちで書いてんだろ。

やる気ってどうやったら出るんだろ。

はぁ、と何度目かのため息をついた時、背後から砂利を踏む足音が近づいてくるのを感じて。

願いが込められた絵馬に背を向けた。

足音の持ち主は制服姿の女の子で、この人も合格祈願かもしれないなんて思いながら、すれ違ったその時。

「あの」

「御守り落としましたよ」

数歩進んだところで、背中で聞こえた声が自分に向けられたものだと気づいた僕は振り返った。

案の定、女の子とパチッと目が合う。

「えっと、」

「これ、今落としましたよ」

女の子が差し出した手には、御守りが。

肩にかけている鞄を見ると、確かに付けていたはずの御守りがない。

神社で御守り落とすなんて、縁起わる…

やる気出ないってため息ばっかついてるせいかな。

「…ありがとうございます」

とりあえずお礼を言って御守りを受け取ったら、

「大丈夫ですよ」

「え?」

「受験、頑張ってください」

女の子がニコッと微笑む。


その笑顔を見たら、余計モヤモヤしてきて、

「どう頑張ればいいんだよ」

気づいたら、ボソッと心の声が漏れていた。


「え…」

「あっ、…すみません」

驚いた顔に変わった女の子に、ごめんなさいと告げ、足早にその場を去ろうとした。


「自分に嘘つかない」


自己嫌悪に陥ってた僕の耳に届いた声。

大きくはっきりと発されたその言葉に、思わず足を止めて振り返った。


「考えても悩んでも前に進まなくて、もういいやって思おうとしてもやっぱり無理だから。この気持ちに気づかないふりをしても、それはふりでしかないから」


え…?

ぽかんとしてると、さらに続けて「私、好きな人がいるんです」と言った。


「夏に好きになったのに、冬になっても何も行動できなくて。でも好きだから、ちゃんと頑張りたいから」

「…」

「自分に嘘つかない。行動する!」

そう言って、手に持っていた絵馬を絵馬掛けに掛けた。



「……あの、」

「あっ、」

ハッと我に返ったように、こっちを見て「ごめんなさい、見当違いなことをべらべらと、」と謝る。

「とにかく、その…応援してます」

申し訳なさげに言って、ペコッと頭を下げて去っていった。
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