私の世界に現れた年下くん
近づく距離
「あ、川原先輩!」
「お待たせしました、」
「いえ!じゃあ、よろしくお願いします」
「、うん」
2人並んで学校を出る。
昨日は村井先輩と帰って、まさか今日別の男の子と帰ることになるなんて…
ていうか、ほぼ初対面の後輩の男の子と、2人で帰るって、普通ないよね。
何を話したらいいの…
困っていると、隣から「あの、」と声が聞こえた。
「僕の名前覚えてますか?一応、お昼休みに言ったんですけど…」
「えっと、名倉くん、だよね?」
「そうです名倉春樹です!」
覚えててくれた、と嬉しそうな顔を向けてくる。
だからそんなまっすぐな目で見ないで〜。
愛ちゃんに一目惚れとか言われたから、恥ずかしくなっちゃう。
「今日は急にすみませんでした。でも、決して怪しい者ではないので」
「や、大丈夫、分かってるよ」
「ほんとですか?よかった!」
「びっくりしたけどね」
「ですよね、すみません」
しょんぼりと頭を下げる男の子…じゃなくて名倉くん。
短く整えられたマッシュヘアが爽やかな雰囲気で、でもコロコロ変わる表情が可愛らしい印象を受ける。
ザ・年下男子って感じ。
村井先輩とは違うタイプだなぁ。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「うん、なに?」
「えっと、彼氏とかって…いますか?」
ドキッ。
私が村井先輩に聞けなかったことを、名倉くんはいきなり聞いてきた。
「…いないよ」
「あっそうですか」
名倉くんはちょっと嬉しそうに、よかったと呟いた。
早速確認されたってことは、ほんとに一目惚れなんじゃ…
頭の中で1人焦り出す。
どうしよう、今日いきなりなんか言われたら。
いやでも、お礼させてほしいってことだったし、さすがに大丈夫だよね。
てか、お礼ってなんだろう…とぐるぐる考えてると、
「川原先輩、甘いもの好きですか?」
「え…甘いもの?好きだけど」
「じゃあ、パンケーキ食べに行きませんか?駅の向こう側に新しいお店できたみたいで。知ってます?」
「あー…」
もちろん知ってるよ。
村井先輩と行きたいなぁって思ってたけど、誘えなかったお店だもん。
村井先輩と行きたかった…!
「川原先輩…?行きたくないですか?」
私が黙っちゃったからか、不安そうに顔を覗き込んでくる。
「あ、ううん、いいよ。パンケーキ食べに行こう」
「はいっ!」
名倉くんは、何も悪くない。
お店に着くと数人並んでて、少し待つと中へ入れた。
ふわふわでものすごく柔らかいパンケーキ。
「すごいふわふわ、美味しいですね」
「うん、美味しい」
「甘いものって人を幸せにしますよね〜」
目をつぶってパンケーキを味わう名倉くんは、ほんとに幸せそう。
なんだか私までほっこり幸せな気持ちになる。
「川原先輩は、甘いもの以外に他に好きなものあったりしますか」
「え、他?」
「はい。僕は音楽が好きで、毎日聴いてるんですけど」
「あ、私も音楽好き」
「ほんとですか!どんなの聴いたりするんですか?」
「んー…色々聴くけど、J-POP系が多いかな。メロディがいいなと思って、歌詞も気になって聴くことが多くて」
「J-POPかぁ、おすすめとかありますか?」
「えっと、」
音楽という共通の趣味があったからか、話題に困ることはなく、話も弾んで、あっという間に時間は過ぎた。
「そろそろお会計にしますか」
「あ、私払うよ」
「いや僕が払います!お礼なので」
「でも、一応先輩だし」
そう言うと名倉くんは、
「じゃあ…また今度、一緒に帰る時お願いします」
ニコッと笑った。
え…!?
私が固まっていると、名倉くんはサッと伝票を持ってお会計へ向かってしまった。
え、今…さらっと凄いこと言ったよね?
また今度って…今度があるの?
動揺を隠せないまま、慌てて後を追う。
既にお会計を終えていた名倉くんと一緒に、お店を出た。
「ありがとう、ごちそうさまでした」
「いえ、こちらこそありがとうございました。美味しかったですね」
「うん」
さっきの「また今度…」のこと言われるかなと思ったけど、名倉くんは何も言ってこなくて。
気になるけど、私から聞くのは行きたいみたいでおかしいし、別に行きたいわけじゃないし…なんて思ってるうちに、駅に着いてしまった。
改札へ向かおうとしたら、名倉くんはなぜか立ち止まって、私も足を止める。
「名倉くん?」
「…あの、川原先輩」
「うん」
私の顔を伺うように、丸い瞳がこっちを見てくる。
「、どうしたの?」
「あー…あの、LINE教えてください!」
「LINE?」
「おすすめしてくれた曲、聴いたら感想言いたいので」
「…」
すぐに付け足された、いかにもそれっぽい理由。
この前教室に来た時もだけど、結構勇気出して言ってるのかな、と思ったら、なんだかちょっとキュンとした。
…いいかな、LINEくらい。
「うん、いいよ」
「ほんとですか、やった!」
よしっとガッツポーズする姿に、思わず笑みがこぼれる。
今まで感じたことのない、胸の奥がむず痒いような気持ち。
不思議となぜか嫌な気はしなかった。