私の世界に現れた年下くん
宿題をやりながら受付をしていた私。
人が来たから、貸出かなと思って顔を上げたら、そこにはなんと村井先輩が立っていた。
“先輩…!”
“久しぶり”
“お久しぶりです”
“川原いるかなと思って来ちゃった”
“えっ”
“よかった、いて”
微笑む先輩に、私は驚きを隠せない。
“えっと、どうして?”
“最近LINEないし、どうしてるかなーと思って”
“え…それは、先輩の返事を待ってたから…”
“え、俺また返してなかった?ごめん!”
慌ててスマホを見ながら、“そりゃ川原から来るわけないよな”と苦笑いする先輩。
そう。
実は、また既読無視されていて落ち込んでいた。
それなのに、先輩は忘れてたの?
私はこんなに気にしてたのに。
胸がズキッと痛む。
“うわほんとだ、ごめん”
“いえ、…最近忙しいんですか?”
“ちょっと勉強が大変で…って言い訳だよね”
“いや、…受験勉強やっぱりきついですか?”
“きついよ〜、受験生辛すぎ。たまにリフレッシュしないとやってらんない”
村井先輩がはぁ、と項垂れる。
モヤモヤするけど、こうして先輩が会いに来てくれたのは嬉しい。
私のことが頭に浮かんだってことでしょ?
たったそれだけのことが、私の背中を押す。
“村井先輩”
スッと息を吸う。
“リフレッシュ、私でよければ付き合いますよ。放課後とか、全然いつでも大丈夫なので”
勇気を出して言ってみたら、
“ありがと。じゃあ今度頼もっかな”
ふわっとした笑顔が返ってきた。
気持ちが高まって、いつがいいですかと聞こうとした。
けど、その前に先輩は、
“じゃ、そろそろ勉強しに行くね”
“あ、”
“そうだ、LINEちゃんと返します”
申し訳なさそうに笑った先輩に、結局聞けず、ただ“待ってます”としか言えなかった。
・
「村井先輩、ずるいなぁ」
私の話を聞いた愛ちゃんは、そう呟いた。
「悪気がなさそうなところが余計にずるい」
「そうなんだよね…」
ほんとにそう。
だから嫌いになれない。
「期待しちゃうけど、結局ちゃんと約束できてないしさ…」
「どういうつもりなんだろうなぁ」
「全然分かんないよ」
「なんか、結月のこと好きなの?どうなの?って私が問い詰めたくなってきた」
「えっ!?」
「それかさ、もう結月から告白しちゃったら?」
「こ、告白!?」
突飛な発言に驚く私に、真面目な顔で愛ちゃんは続ける。
「そう。はっきりしない状態が続くのって辛くない?だから告白して、先輩の気持ちを確かめるの」
「んー…でも…」
私には告白するだけの勇気も自信も全くない。
はぁ、とため息をつく。
「そんな簡単なことじゃないよね、ごめん」
「ううん、愛ちゃんの言うことは分かるの。ちゃんと確かめた方がいいっていうのは」
分かってるけど、でも…怖い。
「まぁ、でもさ、先輩から結月に会いに来てくれたのは良かったじゃん。そこはポジティブに捉えていいと思うよ?」
「うん…ありがとう」
授業始まっちゃう急ご!と走り出した愛ちゃんに付いて私も走る。
そうだよね。
私のこと気になって会いに来てくれたのは事実だもん。
大丈夫、自信持とう。