氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】
「結、やっぱりここにいた」
「晴也先生」
少し控えめに笑いかけてくれたのは、私が5歳の頃からフィギュアスケートを教わっている水沢晴也コーチだった。
「今年もきれいに咲いたな」
「……はい」
隣に並んで桜の木を見上げる晴也先生は、きっと私の胸のうちもお見通しなのだろう。
寄り添ってくれるような先生の優しさは嬉しいけれど、やっぱり私は心のバリアを張ってしまう。
他の誰とも本音で話せない。
ただひとり、晶にだけしか……。
「先生」
「ん? なんだ」
私は晴也先生に正面から向き合った。
「私、フィギュアスケートやめます」
ハッと先生が息を呑むのがわかった。
「今まで本当にありがとうございました。バッジテスト6級を受けたくなくて、もうやめると言った時も、試合に出なくていいし6級も目指さなくていいから続けなさいと言ってくれて……。先生を困らせてばかりの悪い生徒でごめんなさい。でもこれで最後です」
「結、待て。ゆっくり話をさせてくれ」
「もう決めたんです。わがままな私なんかにつき合うの、先生も疲れちゃったでしょ?」
「そんなこと……」
先生の言葉を遮るように、私は頭を下げる。
「ありがとうございました」
そしてそのままくるりと背を向け、気持ちを振り切るように駆け出した。
「晴也先生」
少し控えめに笑いかけてくれたのは、私が5歳の頃からフィギュアスケートを教わっている水沢晴也コーチだった。
「今年もきれいに咲いたな」
「……はい」
隣に並んで桜の木を見上げる晴也先生は、きっと私の胸のうちもお見通しなのだろう。
寄り添ってくれるような先生の優しさは嬉しいけれど、やっぱり私は心のバリアを張ってしまう。
他の誰とも本音で話せない。
ただひとり、晶にだけしか……。
「先生」
「ん? なんだ」
私は晴也先生に正面から向き合った。
「私、フィギュアスケートやめます」
ハッと先生が息を呑むのがわかった。
「今まで本当にありがとうございました。バッジテスト6級を受けたくなくて、もうやめると言った時も、試合に出なくていいし6級も目指さなくていいから続けなさいと言ってくれて……。先生を困らせてばかりの悪い生徒でごめんなさい。でもこれで最後です」
「結、待て。ゆっくり話をさせてくれ」
「もう決めたんです。わがままな私なんかにつき合うの、先生も疲れちゃったでしょ?」
「そんなこと……」
先生の言葉を遮るように、私は頭を下げる。
「ありがとうございました」
そしてそのままくるりと背を向け、気持ちを振り切るように駆け出した。