乙女解剖学



 とうとう、この田舎を出て街に帰るときが来た。

 倦怠感のある下腹部の感覚は確かにそこにあって、それだけで昨晩の行為を思い出してしまう。気恥ずかしいような、それでもすこし幸福な、そんな乙女の心持ちだった。


 すこしだけ早く起きて、荷物をまとめて、民泊からチェックアウトした。そこからしばらく歩くと、例のトタン屋根のバス停に行き着く。そこであたしたちは、一日に2本しかないバスの、午前の便を気長に待った。

 そのうち、定刻よりも数分遅れてバスがやってくる。ここに来たときと同じように、空蝉さんが窓際を譲ってくれた。

 あたしたちの手と手はかたく結ばれていた。

 バスは、長く続く田んぼ道を真っ直ぐに進んで行く。車窓を流れる面白みの欠片もない景色を眺めながら、この田舎に来ることはもうないだろうし、この道を見るのもきっと最後になるのだろうと、なんとなく考えた。


 バスを降りる前、空蝉さんに新幹線の切符を渡された。

 事前にあたしの分も買ってくれていたらしい。これから入る駅の名前と、あたしたちの住む街のターミナル駅の名前が記されている。確実にそれを受け取り、財布に仕舞う。

 そのうち、終点である駅前のロータリーにバスが停まったので、バックパックを背負って下車した。そのまま、空蝉さんの隣に並ぶ。バスのロータリーから鉄道の駅に入るまで、1〜2分程度歩かねばならない。



「……空蝉さん?」



 バスを降りて、駅に向かって歩き出そうとしたとき、空蝉さんがその場で立ち止まった。

 彼の視線は、駅の入り口付近に注がれている。

 だけどその視線の先に何があるのか、全くわからなかった。目新しいものは何もなく、往来をする人の影と、駅前で煙草を吸う人たちがちらほらと見えるだけだった。



「ごめん、何でもない」



 空蝉さんはゆるく首を振ると、ゆっくり歩き出す。どうしたのだろう、と訝しみながら、そのまま彼の隣を歩いていた。

 彼の方から、自然に手を握られる。恋人みたいなつなぎ方だった。

 彼は歩きながら続ける。



「麗。あのゲーム、まだ続いてるよね」


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