一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
1・7年越しの再会は、カフェ宇多見で
 彼が私の名を呼ぶ姿は、昨日のことのように思い出せる。

星奈(せな)さん』

 ーー忘れられるはずが、なかった。

 あの人は腹違いの妹。
 宇多見 陽日(うたみ はるひ)さんが言い寄ったあとも、彼女に靡くことなく。
 唯一、私の名前を呼び続けてくれた異性だったから。

『私の名前を、呼ばないでください』

 本当は彼に、名前を呼ばれるのが好きだった。
 あなたにならば何度だって、私の名を口ずさんでほしかった。
 叶うことなら、想いを通じ合わせてみたかった。

『俺が好きなのは……』
『私はあなたのことなんて、大嫌いです。もう二度と、私に話しかけないでください……!』

 ーーそんな私のささやかな願いを成就させる最後のチャンスが、高校の卒業式で神様から与えられたのにーー。

 本心とは真逆の言葉を口にして、あの人を傷つけた。
 妹に愛する人を奪われるのが怖くて、彼の想いから逃げたのだ。

 ーーわたしはずっと、あの日のことを後悔している。
< 1 / 185 >

この作品をシェア

pagetop