一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
「あれ? 宇多見?」

 聞き覚えのない男性から名字を呼ばれた私は、警戒心を強めながら後ろを振り返る。
 あちらが一方的に名字だけを知っている状況であれば、カフェに訪れたお客様の可能性が高いからだ。

「小隊長が女の子と一緒にいるところって超珍しいんで、様子を見て来いって言われたんすけど……。オレでよかったっす! 他の奴らだったら、大変なことになってたっすね!」

 特徴的な体育会系の話し方と、身長は恐らく、170cm程度だろうか。
 関宮先輩と比べると、低い背の男性にはまったく見覚えがなかった。

 消防署の名前が入った黒いTシャツを身に着け建物から出てきたあたり、彼の同僚である可能性が高いけれど……。

 ーーあなたは誰ですか、なんて……。問いかけても、いいのだろうか。

 後々関宮先輩の迷惑になるのだけは、避けたい。借りを作ったら、どんな交換条件を持ち出されるかわかったものではないからだ。最悪の場合は、彼の気持ちを面と向かって打ち明けるまで、家から出してもらえないかもしれない。
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