一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
「もしもーし。オレの声、聞こえてます?」

 そうした妄想を脳裏に思い描きながら、私がじっと黙って困惑していたせいか。
 話しかけてきた男性は何かを察して、満面の笑みを浮かべて元気よく自己紹介をしてきた。

「高校の、卒業式以来っすね! オレ、青垣戸塚っす!」
「青垣、さん……?」
「こりゃ、覚えてない顔っすね~。小隊長の舎弟で、宇多見警備隊の副隊長なんすけど?」
「関宮先輩と、仲のよかった人……」

 そこまで情報を開示されて、やっと思い当たる人物が一人だけ浮上する。

『宇多見! そんな顔してたら、幸せ逃げちゃうっすよ! スマイル、スマイル!』

 3年間、ずっと同じクラスの同級生。
 底抜けに明るく、騒がしくて。
 いつも笑顔を浮かべるお調子者。

「……あ」

 遠ざけても、遠ざけても。
 関宮先輩をサポートするために、声をかけてきた人ーー。

「やっと思い出したっすか~? ま、いいんすけどね! オレ、モブなんで!」

 妹に負けず劣らず太陽のような笑みを浮かべる青垣くんは、ひらひらと手を振りながら私との再会を喜んだ。
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