一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 この状況から逃げ出したところで、私には行く宛などない。
 頼れる人もいないのに、どうしろと言うのか。

「そんなに暗い顔で悲観するほど、宇多見の置かれてる状況は悪くないっす」

 青垣くんが告げる言葉は、改めて言われるまでもないことばかりだ。

 ーー私と妹の関係性をよく知らないくせに口出しして来ないで。

 そうした言葉にできない気持ちを押し留めるべく、握っていた手に自然と力を込めた瞬間のことだ。

「青垣!」

 慌ただしい足音とともに、後方から地を這うような低い声が聞こえてきたのは。

「俺の星奈さんを、ナンパしないで」

 左手にA4サイズの紙が入る封筒を手にした関宮先輩は青垣くんを押しのけ、私の元までやってくる。
 その後すぐさま自分のものだとアピールするように、腰を抱く。

「いや~。誤解ですって! 暇つぶしっすよ!」

 同級生は必死に引き攣った笑みを浮かべて誤解を解こうとしていたけれど、その努力も虚しく睨みつけられていた。
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