一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 ーー私も関宮先輩のようになれたら、妹に奪われるだけの人生から逃れられたのかな……。

 心を鍛えるには、まずは身体からと聞いたことがある。

 関宮先輩の自宅に転がっていたダンベルを思い浮かべた私は、彼の目を盗んで少しずつ筋肉をつけるのも悪くないかもしれないと思った。

「好きで鍛えてるわけじゃないけどね。星奈さんが、この身体に嫌悪感を抱かなくてよかった」

 関宮先輩は私のポツリと呟いた言葉を、ネガティブな意味ではなくポジティブな言葉として受け取ったようだ。
 嬉しそうに口元を緩める姿はまるで、上手にお手ができて飼い主から褒められる犬のようでーー。

 彼の意外な一面を知っているのは私だけなのだと思ったら、ちょっとした優越感のようなものを抱いてしまった。

 ーー私は関宮先輩に好かれているだけで、恋人でもなんでもないのに。

 こうした姿を見てくれるのが何よりも嬉しいなどと素直に打ち明けたら、彼が私の隣からいなくなってしまうことは想像に難くなかったのに。
< 114 / 185 >

この作品をシェア

pagetop