一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
「いつもみたいに、譲ってよ。お姉ちゃんなんだから」

 でも……。
 それじゃ駄目だって、彼に教えてもらったから。

「でき、ま、せん……」

 私は何度も言葉を詰まらせながら、必死に拒否の言葉を紡ぐ。

「何? 聞こえないんだけど!」

 私が必死に絞り出したか細い声は、店内のBGMにまぎれて。
 陽日さんまで届かなかったようだ。
 彼女に凄まれたせいだろうか。

 両目からは、恐怖でじんわりと涙が滲む。

 泣くな。ここで屈したら、逆らった意味がない。
 関宮先輩を、奪われてしまう。
 それだけは、絶対に嫌だ。

「香月先輩と……っ! 結婚するのは、私、です……!」

 私は妹に対し、二度目の反抗を行った。

「ふぅん」

 陽日さんは怒鳴りつけて来ることなく、どうでもよさそうに相槌を打つ。
 その後コーヒーを注文したお客様の会計をするために、厨房を出て行ってしまった。

 ――どうして……?

 いつもの彼女だったら、私に怒鳴り散らしてくるはずなのに……。
 いつもと異なる妹の反応に怯えた私は、レジの前にいる陽日さんの様子を厨房からこっそりと窺った。
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