一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
「ま、待ってください! 陽日さんが……!」

 関宮先輩の胸元を叩きながら妹も助けてくれと懇願したが……。
 すぐさまその必要はなかったのだと、外に出てから気づいた。

「ど、どうしよう……」

 店の前で、陽日さんがへたり込んでいたからだ。

「よ、よかった……」

 足が竦んで動けずにいた間に、一足早く彼女は自力で正面玄関から外に出ていたらしい。

 私が彼の腕の中でほっと一息つけば、安全を確認した彼が抱きしめる腕の力を強めた。

「それ、こっちの台詞だから……」

 普段余裕綽々な様子を見せる関宮先輩にも、今回ばかりは焦りの色が声音に滲んでいる。

 ーーこうした時、なんて声をかければいいのだろう?

 助けてくださり、ありがとうございました?
 関宮先輩は、私のヒーローです?

 どれもしっくりこなくて。
 じっと黙っていれば、耳元で関宮先輩の押し殺した低い声が囁かれた。

「星奈さんがいなくなったら、どうしようかと思った……」

 ーー私の無事を喜んでくれる人がいるなんて、思っていなかったから。
 その言葉が、何よりも嬉しくて。
< 140 / 185 >

この作品をシェア

pagetop