一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 それが消防服に身を包んだ青垣くんだと気づき、関宮先輩は露骨に嫌そうな顔をした。

「今日は違うし」
「す、すんません! ラブシーンの邪魔、しちゃいました?」
「タイミングが最悪」
「でも、ほら。内部の状況を確認するのだって、仕事のうちじゃないすか?」
「無駄口叩いてないで、さっさと持ち場について」
「ういっす!」

 関宮先輩が消化器である程度炎の勢いを弱めたとはいえ、完全には消し止めきれなかった火がーー彼の同僚達の手によって鎮火されていく。

 ーーよかった。全焼は、免れたみたい……。

 内部は水浸しで、厨房の壁は焼けてしまった。
 そこで料理を作るつもりなら、リフォームが必要になるだろう。

 何事かと近隣住民達がちらほらと様子を見に来ているし、ボヤ騒ぎを起こしたと噂になれば、営業を再開したところで閑古鳥が鳴くだけだ。

 ーーいつも誰かにちやほやされていないと気がすまない陽日さんは、それに耐えられるのかな……。

「星奈さん。帰ろう」
「で、でも……」

 私が後ろ髪を引かれる思いで妹を見つめていれば、青垣くんと話を終えた関宮先輩に、帰宅を促された。
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