一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 急に現実を突きつけられたせいか。うまくこの状況を受け入れられず、オロオロと視線をさまよわせて狼狽えた。

「奥さんが旦那のことを、いつまでも名字で呼ぶのはよくないよね」
「それは、結婚してからでも……」
「星奈さんはまだ俺に、待てを命じるの?」

 関宮先輩は、高校の時からずっと私を好きで居続けてくれたのだ。
 やっと手を伸ばせば届く距離まで近づけたのに、今まで通り背を向けて遠ざけ我慢を強いるのは、彼に対して失礼でしかない。

 それをよく、理解しているからこそ。どうやって自分の気持ちを伝えればいいのかよくわからなくて……。

「俺、随分待たされてるんだけど」
「そ、それは……」
「俺はずっと、一途に星奈さんを想い続けてるのに」
「ご、ごめんなさい……」
「そうじゃないでしょ」

 申し訳ない気持ちでいっぱいになり謝罪を口にすれば、彼は別の言葉を要求する。

 関宮さんに伝えなければならない言葉があるとすれば、この言葉しかない。

 そう思い立った私は、自信のなさそうな表情とともに彼へ告げた。
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