一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 ーー妹に別れの挨拶をしなくていいのだろうかと、足を止めたのが仇になった。

「ちょっと待ってよ……!」

 私が香月先輩とともにカフェ宇多見をあとにする姿を目敏く目撃した彼女は、情けない声を上げて私達を呼び止めた。

「お姉は、あたしを見捨てないよね!? たった二人だけの、姉妹でしょ!?」

 両親はすでにこの世におらず、常連客を失った今。
 妹が頼れるのは、種違いの姉である私だけしかいないからだろう。

 香月先輩が、私を愛してくれなかったら……。

 あの子に優しい言葉をかけて、一緒にお店を立て直して行こうと、二人三脚で頑張ってろうとしていたかもしれないけれど……。
 悪夢から目覚めた私が、陽日さんに優しく手を差し伸べる義理はなかった。

「星奈さんを都合のいい道具扱いして、人生をめちゃくちゃにしたくせに。よく助けてほしいなんて言えるね……」
「支え合って生きていくのが当然じゃない! それなのに……!」

 香月先輩も私と同じ気持ちのようだ。妹に向ける視線は厳しい。
 それでもあの子は、こちらに縋るのをやめなかった。
 ここで梯子を外されたら。
 どうやって生きていけばいいのかすらも、わからないと怯えているのかもしれない。
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