一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
8・関宮家に挨拶
「また泣いてる……」
「これは、嬉し涙です。香月先輩の妻になれて、本当によかった……。そう実感をしたら、止まらなくて……」

 妹との決着を終えた彼は、私の目元に溜まった涙を指先で拭うと、呆れたように言葉を紡ぐ。

「これから両親に会うこと、忘れてない?」
「あ……」

 あまりにも激しい憎悪を彼女から向けられたせいで、このあとの予定をすっかり忘れていた。

「泣き腫らした目で会いに行ったら、怒られそうなんだけど」
「ご、ごめんなさい……!」
「待って。目が傷つくから。擦らないで」

 私はゴシゴシと目を擦って涙を止めようとしたが、香月先輩はそれを許さない。
 彼の指摘を受けて必死に泣くのを止める努力を続けていれば、心配そうにこちらを見つめる夫と目が合った。

「どうする? 予定、キャンセルしようか」
「だ、大丈夫です。体調が悪いわけでは、ないので……」
「本当に、いいの?」
「はい。関宮家の一員になったのですから。ご挨拶は、早めに済ませたいです」
「同居するわけじゃないんだから、気にしなくていいのに」

 香月先輩は私の頭を優しく撫でつけ、落ち着かせようとしてくれる。それが嬉しくて。恥ずかしさを感じながらも。
 彼の胸元に身体を預ければーー。

「そんなところも、好きだけどね」

 香月先輩は私を片手で抱きかかえ直すと、目元に残っていた涙を唇で舐め取った。
 小さなリップ音を耳にしてそのことに気づいた私は、頬を赤らめ彼と見つめ合う。
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