一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 下の名前にちゃんつけで呼ばれる機会なんて、ほとんどなかったから。
 なんだかすごく新鮮だ。

「はじめまして。宇多見……」
「星奈さん。違うでしょ」
「あ……。この度、香月先輩の妻になりました。星奈と申します……」

 どうすればいいのかわからなくて、自己紹介をしたあとにペコリと頭を下げるのが精一杯だった。

 緊張しすぎて旧姓を名乗ってしまい、それを香月先輩に指摘されてしまうし。
 第一印象だけはちゃんとしようと決めたのに、彼のお母様に最悪な印象を与えてしまった。

「緊張しすぎ。そんなに心配しなくてもいいって、言ったのに」
「で、でも……っ」
「香月。星奈ちゃんを責めないの。義家族に嫌われたらどうしようって不安になるのは、当然のことよ」

 香月先輩のお母様は私に優しい言葉を投げかけると、ひらひらと手を振りながら手招きした。

「私ね? 娘が欲しかったの! こんなにかわいい子なら、いつでも大歓迎よ! さぁ、上がって!」

 不思議そうにその様子をぼんやりと見つめていれば、私と指先を絡めあっていた彼がゆっくりと足を動かして前に進む。
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