一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 どうやら玄関先の立ち話を長々するのであれば、中に入れと伝えたかったようだ。

「星奈さん、行こう」
「お、お邪魔します……」
「はい、どうぞ。靴なんて揃えなくていいわ。自分の家だと思って、ゆっくりしていってね!」

 彼のお母様には遠慮する必要はないと優しい言葉をかけてもらったけれど、そう言うわけにもいかないだろう。
 震える指先を使って脱いだ靴を丁寧に揃えてから、私は手を繋いだまま香月先輩とともに廊下を歩き、リビングへと足を踏み入れた。

「お父さーん。香月がお嫁さんを連れて来てくれたわよ~」
「来たか」

 ダイニングテーブルに備え付けられた椅子に座り新聞を読んでいたのは、年配の男性だ。
 眉間に皺を寄せて私を見つめる姿を見る限り、かなり厳格で神経質そうな人に見える。

 ーー私、うまくやっていけるかな……?

 すべてを包み込む聖母マリアのような優しい微笑みをたたえる義母とは真逆の、口数が少なく不機嫌そうに見える義父。

 二人を交互に見つめた私は恐縮してしまい、ペコペコと何度も頭を下げるしかなく……。
 また、香月先輩に迷惑をかけてしまったと反省した。
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