一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
「ありがとう、ございます……」
「息子は君のことを、出会った当初から好いていたと聞く」
「……お義父様も、ご存知なんですね」
「ああ。私もあの頃は、まだ若かった。自分と同じ道を志すようにと息子に告げたせいで、君を怖がらせてしまった」

 香月先輩は今でこそ黒髪だけれど、高校時代は金髪だった。

 似合ってはいたけれど、垢抜けたその容姿が遊び人にしか思えなくて。

 どうせ妹に奪われるに決まっている、と。私は彼を遠ざけてしまったがーーどうやら彼にも、私に話していない事情が存在したようだ。

 このいい方だと……。
 香月先輩はお父様に反抗したくて、金髪に染めていたのだろう。

 義父の言葉を耳にした私は、義母と歓談する夫の姿を横目でじっと見つめる。

 もう何年も染めていないからだろう。彼の髪の毛は当時の面影など見つかるはずもなく、何度確認したところで真っ黒だった。
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