一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 合いびき肉に胡椒を振りかけ、みじん切りにしたキャベツと玉ねぎ、ニラを右手で捏ねて混ぜ合わせた義母は、手を洗ってからボウルを持ちリビングに向かった。

「お待たせ~。お父さんの職人技、見せてもらおうかしら?」

 義母の挑発に義父は小さく頷くと、無言で餃子の皮を手に取り作業を始める。
 スプーンで具材を掬い取り、皮を包む姿はとても手慣れていた。

 関宮家は日常的に、手作り餃子を楽しんでいるのかもしれない……。

 仲が良さそうなご両親の姿をキッチンからじっと見つめていた私は、使い終えたまな板と包丁をシンクの上で洗う。

 ーーこれ、どこに仕舞えばいいんだろう……?

 汚れ落とし水気を切ったあと。
 収納する場所に迷っていれば、私の後ろに影ができた。
 刃物の先端を向けないように気をつけながら振り返れば、そこにいたのは香月先輩でーー。

「まな板はこっち。包丁は、ここ」
「あ、ありがとうございます……」
「夕食。断ればよかったのに」

 彼は使い終えた道具の収納場所を教えるために、わざわざリビングからキッチンまでやってきたようだ。
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