一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 恐縮しながらお礼を告げて包丁とまな板を仕舞えば、不貞腐れた香月先輩の声が聞こえてきた。

「誘って頂けるうちが花と、言うではありませんか」
「俺は星奈さんが、無理をしているようにしか見えないんだけど」
「そのようなことは……」
「ほら。またそうやって、言葉を濁す」

 香月先輩は私がどれほど平気なふりをしても。
 無理をしていると、本気で思っているようだ。

「食事が終わったら、すぐに帰るから」
「……はい」

 香月先輩は、私と義母が話すのを嫌がっているように見える。
 それがなぜなのかは、わからぬまま。
 しっかり指先を絡めて手を繋いだ彼は、私をリビングへ連れて行くとーー空いている椅子に並んで座った。

「そんなにベタベタ絡んでいると、嫌われてしまうわよ?」
「大きなお世話」
「苛つくと口数が少なくなるのは、香月の悪い癖ね」
「星奈さんの前で誤解を与える表現、しないでくれる」

 義母の言葉を耳にした私は、初めて彼が自身の前でだけ饒舌になる理由を知った。

 言われてみれば、確かにそうかもしれない。
 私が妹と一緒にいる時、彼はいつだって口調が荒くなっていたから。
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