一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
「あら。結婚したんだからいいじゃない。夫婦の間に、秘密はなしよ?」
「だから、さっさと帰りたかったのに……」

 悔しさの滲む声を上げた香月先輩の声を聞いた私は、義母と絡むのを嫌がっている理由をこの時初めて知った。

 香月先輩は、知られたくなかったんだ……。

「香月先輩の新たな一面垣間見えて、嬉しいです」

 ご両親にテーブルの下が見えないのをいいことに。
 私は繋いだ指先に、力を込めた。

「星奈さん……」
「そうよ! その調子! 星奈ちゃんは笑うと、とってもかわいいんだから! これから私達と一緒に、たくさん楽しいお話をしましょう!」

 元気で明るくて優しいお義母様。
 黙々と餃子を包む、職人気質なお義父様。
 肩を落として項垂れる香月先輩。

 関宮家の一員になったからには、みんなを悲しませるよりも一緒に笑い合えるようになりたい。

 そう、心の底から改めて考え直した私はーー。

「は、はい……。ありがとう、ございます……」

 どんなにつらくて悲しい出来事があったとしても。
 顔には出さないように気をつけると決め、他愛のない会話を続けながら。私はご両親との食事を、楽しんだ。
< 171 / 185 >

この作品をシェア

pagetop