一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 ーー寝て起きたら、あの子の怒りも収まるはずだ。

 こうなることを見越して、鍵のかかるクローゼットには非常食を隠し持っている。
 お菓子で腹を満たした私は、起きていても仕方がないと気持ちを切り替えーーベッドに勢いよくダイブした。

「ぁ……」

 ーーふかふかのベッドに背中を打ちつければ、胸元でシャラリと鎖の擦れる音が響く。

 関宮先輩の合鍵と住所を手にしてしまったことをすっかり忘れていた私は、天井からぶら下がったライトに照らされて光り輝く鈍色の鍵をじっと見つめた。

 次に彼が姿を見せた時は、今度こそ。
 ちゃんと勇気を出して、返却しよう……。

 そう決めた私はゆっくりと目を閉じ、眠りの国へと意識を手放した。

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