一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
「は、陽日さ……! ごほっ。ごほ……っ!」

 右隣の部屋にいるであろう陽日さんに異変を知らせようとしたけれど、煙を吸ってしまったせいでうまく大声を出せなかった。

 このまま無理に声を出そうとすれば、喉がやられてしまう。

 ――自分の言葉以外で、外に助けを求めなきゃ……! 

 別の手段を講じるべきだと気持ちを切り替えた私は、喉を抑えながらあたりを見渡す。

 だが、ベッドの上には布団と目覚まし時計くらいしか見当たらなかった。

 貴重品とスマートフォンを入れたバッグは、靴を脱ぐ時廊下に放置したまま。
 いつも肌見放さず、手元に置いて置かなかったことを、これほど後悔したことはない。

 スマホが駄目ならーー何か、他に。
 大きな音を出せるアイテムは……。

 視線をさまよわせた私は、枕元にあったあるものを震える指先で掴み取る。

 現在の時刻は深夜の二時四十六分。

 裏側のダイヤルを捻り、スイッチをオンにすればーー近所迷惑にも程がある時間に、けたたましい音が鳴り響くはずだ。
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