一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 私はけたたましい音を響かせる目覚まし時計をしっかりと左手で握り締めながら、体制を低くした状態で施錠を解除し――カラカラと音を立て、窓ガラスを横にスライドさせた。

 空気が室内に勢いよく入り込んだせいか。
 ゴウゴウと燃え盛る炎の勢いが、先程までとは比べ物にならないほど強くなる。

 ――やっぱり私は、このままここで命を落としてしまうんだ……。

「……っ!」

 何度も心が折れそうになりながらも。
 声にならない悲鳴を上げてベッドからベランダへ転がり落ちた私は、炎がこちらまで迫って来ないように扉を閉めた。

 ひとまず自室のベッドで焼死するのだけは免れたが、完全に危機が去ったわけではない。

 ――問題は、ここからだった。

 私が暮らすマンションは、十階建ての四階だ。

 せめてもう一階下であれば、ベランダから外へ飛び降りても骨折くらいで済んだかもしれないが――この高さはさすがに厳しいものがある。

 とてもじゃないが、壁伝いに下へ降りる気にはなれなかった。
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