一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 よかった。
 私を助けに来てくれたんだ……。

 ほっとしたのもつかの間。
 私は大事なことを思い出し、彼に叫ぶ。

「な、中にまだ! 妹が!」

 勢いよく炎が燃え盛る室内を指差し懇願すれば、消防隊員は手慣れた手つきで腰元のロープを手繰り寄せた。

「必ず助けます。じっとしてください!」

 不安を取り除くように声かけを行った消防士はテキパキと腰元の命綱を手に取り、私の身体へ巻きつけていく。

「首元に両手を回してください」
「両手を、ですか」

 いくら救助される身だとしても、自分から男性の首元に両手を回すのは憚られる。

 恥ずかしがっている場合ではないと、わかっているけれど……。

「はい。腰元、触れますね」

 私がいつまで経っても指示通りに動かないからだろう。
 痺れを切らした消防士は一言断ってから腰元を力強く抱き、身体を密着させた。

「このままじゃ、落ちますよ」
「きゃ……っ」
「両手、回してください」

 思わず悲鳴を上げれば、左手で両手を首元へ回すように誘導されてしまった。
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