一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 そんな不安に陥りながらも。

 彼の助けを借りなければ、私は炎に焼かれて命を終えるしかなくなる。
 それは絶対に、嫌だから。
 抵抗せず、じっとしているしかなかった。

「救助始め!」
「確保よし!」
「降下!」

 彼は大声で同僚にそう宣言すると、ゆっくりと私達の乗っているリフターが地上へ向かって降下していく。

 まるで、遊園地のアトラクションに乗車した時のようにーー独特な浮遊感を体験した私は関宮先輩の手によって、擦り傷程度で火災現場から救助された。

「到着!」
「到着確認、よし!」
「怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫です……」

 救助者と消防士として会話を続けていた関宮先輩は、はしごから降りて私を地上へ下ろす。
 その後、私の首から下げていたネックレスの鎖に指をかける。

「よかった。鍵、ちゃんと肌見放さず持っていてくれたんだ」

 月夜の光を浴びて輝く合鍵を満足そうに眺めた彼は、先程までの他人行儀な口調が嘘のように。
 普段通りのタメ口で、私に語りかけた。
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