一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 だって俺は、星奈さんを世界で一番愛しているから。

「星奈さんはこれからずっと、俺と一緒に暮らすんだ。何回も買い出しなんて、面倒でしょ」

 あの子に対する執着心を隠すことなく打ち明ければ、何を言っても無駄だと判断されたのだろう。
 若干引き気味の彼の表情が、印象に残った。

「そ、そうっすね……」

 だから言ったのに。着いてくるなって……。

 星奈さんの姿を思い浮かべて一瞬だけ機嫌がよくなった俺が、すぐさま態度を急降下させたからか。
 青垣は調子を上向きにさせるべく、持ち前の明るさを遺憾なく発揮したが――。

「小隊長も大変っすね。宇多見の心を鷲掴みにするだけじゃなくて、妹の方も再起不能にしなきゃいけないんすから」

 残念ながらその話は、俺の地雷だ。

 フルネームが聞こえてこないだけまだマシだが、あの女の話題を口に出すことすら不愉快極まりない。
 俺は露骨に顔を顰め、声に出さずとも不快感を露わにした。

「あ、あはは……。小隊長……。そう言う顔は、宇多見に見せない方が、いいっすよ……。百年の恋も、冷めるんで……」

 青垣はこの時になってようやく、俺の怒りが頂点に達したと気づいたようだ。
 彼は苦笑いを浮かべながら、後退りして撤収態勢に入る。
「知ってる」
「そ、それじゃ! オレはこれで!」

 青垣とは、星奈さんよりも長いつき合いだ。

 お調子者な印象が大きいものの、彼だって引き際くらいはちゃんと、弁えている。

 このままずっと一緒にいたところで俺の機嫌が悪くなるだけだと悟った後輩は、脱兎の如く逃げ出した。

 ーーああして去って行くなら、最初から着いて来なければよかったのに。

 俺は会計を終えて手に入れた重い荷物を抱え直し、騒がしい後輩と大好きな人と初めて出会った時のことを思い出しながら。

 愛しい人の待つ自宅に向かって、歩みを進めた。
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