一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
「ーーあんたはその子の、なんなの?」
「姉が妹に尽くすのは、当然でしょ!? 外野は引っ込んでーー」
「そんな話、聞いたことないけど」

 すべてを包み込む優しい表情を、見てみたい。
 できることなら、俺があの子を笑顔にしてやりたい。

 今日初めて会ったばかりの女子学生にそんな感情を抱くなんて、あり得ないと思っていたのに――俺は先程まで気乗りしていなかったのが嘘のように。
 自分から、女性同士の言い争いに首を突っ込んでいた。

「せ、関宮……香月……」
「俺、あんたよりも年上なんだけど」

 俺の特徴的な金髪と高身長を目にした女は、一瞬で表情を変化させた。
 それも、悪い方向に。
 キラキラと瞳を輝かせたそいつは、ターゲットをあの子ではなくこちらに変更したのだ。

「夢みたい! 誰もが恐れる狂犬が、あたしに声をかけてくれるなんて!」

 俺の悪評を耳にしているくせに。
 恐れを抱くことなくベタベタと引っついてくる命知らずな女なんて、どうでもよかった。

「邪魔」
「きゃ……っ!」

 俺がほしいのは、こいつじゃない。
 誰にも救いの手を差し伸べてもらえず涙を堪える、あの子の方だ。
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