一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 ――あの男子学生が自分では手に負えないと、俺を呼び来てくれて本当によかった。

 そう、彼に感謝をしながら。

 纏わりついてきた女を強引に振りほどいて突き飛ばせば、俺の手首を引っ張っていた男の手も離れていく。

 ーーただでさえ、容姿が目立つのだ。

 俺は不機嫌そうに眉を伏せていると、恐怖を抱かせてしまうみたいだから……。
 あの子をこれ以上、怖がらせないようにしなきゃ。

 彼女の前でしゃがみこんだ俺は、口元を緩めて話しかけた。

「大丈夫?」

 あの子はまさか、狂犬と呼ばれる俺が自分に声をかけてくるなど、思いもしなかったのだろう。

 まるで傷ついた小動物のように身体を硬直させ、全身を震わせている。
 ――――もしも泣いているのだとしたら、俺が慰めてあげたい。

 それを確かめるためには、この子とどうしても視線を合わせないといけなくてーー。

 俺は彼女の指先に触れ、安心させるように優しい言葉を投げかけた。

「もう、怖くないよ」
「……っ」

 顔を上げたあの子は、恐怖と驚きが混ざり合った瞳で俺を見つめる。
 その目元には、涙が滲んでいた。
< 56 / 185 >

この作品をシェア

pagetop