一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 俺はしばらく、彼女の寝顔を観察すると決めた。

「香月、先輩……」

 星奈さんは今、どんな夢を見ているのだろう?

 俺のことはいつだって、名字でしか呼んでくれなかったのに。
 下の名前で呼ぶってことは、少しくらいは好意的に見てもらえているんじゃないかって。期待してもいい?

 そう問いかけたい気持ちは山々だけど。
 意識を失った彼女の唇からは、きっと俺が望む答えは返ってこない。

「俺にとって星奈さんは、命と引き換えにしても守りたいくらい、大好きな存在なんだよ……」

 だからどうか。
 せめて俺の気持ちを、信じてほしい。

 そんな願いを込めながら彼女を抱きしめ、耳元で囁けば。
 その声に反応した星奈さんが身じろぎをして、呻き声を上げたのに気づく。

 もしかして、起きたのかな……。
 俺は恐る恐る、もう一度彼女に問いかけた。

「体調、悪いの?」
「ん……。問題、ありません……」

 普段はもっと。
 俺を拒絶してくる棘が、言葉の節々に感じ取れるのに。

 今の星奈さんは、寝ぼけているからだろうか。

 口調や声音が柔らかくなっている。
 これが恐らく、彼女の素なのだろう。
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