一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 俺の手を取れば、極上の幸せが手に入ると気づいていないのか。
 見てみぬふりをしているのかまでは、わからないけどーー。

 壁を作ってまで、遠ざけようとしているのに。
 それをよじ登って手を伸ばしてくる俺は、彼女にとって恐怖の対象でしかないんだろうな。

「苦しんでいる所、ずっと見てたから」

 わかってるよ。

 彼女の為を思うなら、この想いは捨て去るべきだったって。

 だけど――俺が星奈さんに手を伸ばすのをやめたら。
 誰があの女の魔の手から、あの子を助けられるの?

 星奈さんを幸せにできるのは、俺だけだ。

 たとえ泣き叫ばれたって、君を追い求めるのを止めないよ。
 だって俺は、誰に何を言われたとしても。

 ーー星奈さんを、愛しているから。

「俺じゃ、駄目?」

 彼女は何度も唇を動かしては、噛みしめる。
 声を出したいのにいつまで経っても言葉が聞こえてこないのは、あの子なりに悩んでいる証拠だろう。

 それか否定したくても、それができないのに苛立っているか。

 ーーどっちでも、いいけどね。
 俺は君から愛してもらえさえすれば。
 他には何も、いらないから……。
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