一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
「俺のこと、好きになってよ」

 覚悟を決めた俺は、思い切って星奈さんとの距離を詰めた。

 つらいことを経験したあと、誰かに優しく手を差し伸べられたら。
 誰だって縋りつきたくなるものだけど――あの子は警戒心が強いから。

 正常な判断を奪われていたとしても、そう簡単には俺の気持ちには応えてくれないんだ。

「私には、きっと無理です……」

 ーーほら、やっぱり。

 星奈さんは瞳を潤ませ、俺を拒絶した。

「あなたに裏切られた時が、怖い……!」

 彼女の瞳からは頬を伝って、涙がこぼれ落ちる。
 泣き顔を見られることすら、恥ずかしいのか。
 星奈さんは両腕を使って、顔を覆い隠してしまった。

「星奈さんの本音、やっと聞けた」
「え……?」

 目の前で大好きな女の子が泣いているのにーー俺が嬉しそうに微笑むなど、思いもしなかったのだろう。

 ゆっくりと両手を横にずらした彼女は、信じられないものを見る目でこちらを凝視する。

「大丈夫。俺に任せて」

 俺は優しく彼女の手を取ると、中途半端に顔を覆っていた両腕を退けた。
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