一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 不快感によって目覚めた彼の不機嫌そうな低い声が、室内に響き渡った直後。
 関宮先輩が長い脚を絡めて、私の動きを封じたのは。

 ーー気持ちよさそうに眠っている彼を、起こしてしまった……。

 そう反省し項垂れたところで、意識を覚醒させた関宮先輩を再び眠らせるのは困難だ。
 私は最後の悪あがきとばかりに、声を荒らげた。

「は、離してください!」
「まだ、昼間じゃん。もう少し、時間あるでしょ」

 関宮先輩は寝起きで、あまり機嫌がよくないのだろう。
 不貞腐れたような声で、私に告げる。
 その口調は、いつもの聞き慣れたものだ。

 ーー消防隊員として働いている時の敬語は、なんだったんだろう……?

 頭の中に浮かんだ疑問を解消するより、彼を説得するほうが先だ。

 そう考えた私は、硬い表情で冷たく言い放つ。

「行き場のない私を泊めてくださったことには、感謝しています」
「どういたしまして」
「約束は、守りました。もう、一人で大丈夫ですから……」
「ほんとに?」

 彼は本当に私の言葉を信じていいのだろうかと、不思議そうに首を傾げてくる。
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