一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 ーー今のは言い過ぎた。

 自分が彼の立場だったらと思った瞬間。
 遅れてやってきた鈍い胸の痛みに、耐えられなくて。
 唇を噛み締め視線を逸らせばーー。

「俺、香月」

 関宮先輩の口から、意外な言葉が飛び出てきた。

 いつまで経っても下の名前で呼ばないのに、痺れを切らしたのだろう。

 目を丸くした私はなぜ突然こんなことを言われなければならないのかと理解に苦しんだが、関宮先輩に望まれたからと言って呼び方を変えるつもりなどない。

 この場は当たり障りなく話の流れを変えようと、真顔で頷いた。

「存じておりますが」
「名前、呼んで」
「嫌です」
「敬語もやめて」
「ご要望には応じかねます」

 私は顔色一つ変えずに淡々と、関宮先輩を拒絶する。
 けれど彼は、けして引かなかった。
 何がなんでも私を言いくるめてみせると躍起になって――そうして、言い合いになる。
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