一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 ーー今はまだ、彼の告白をすべて、受け入れるのは難しく……。
 指先を少しだけ触れ合わせるのが、精一杯だけれど。
 いつかは彼に声を大にして愛を囁き、その手を離れないように絡め合えるといい。

「あいつと一緒にいるより、幸せな時間を過ごさせてあげる」

 そんな願望を夢に描けば。
 関宮先輩は余裕綽々な笑みを浮かべながら、彼の手を取ったことを後悔させないと自信満々に宣言して見せた。

 その自信満々な姿が好きだと思うと同時に、苦手でもある。

 なんとも言えない気持ちでいっぱいになった私が、無言で彼を見つめていればーー気まずい沈黙を破るように、腹部から空腹を告げる気の抜けた音が響き渡る。

「お腹が空きました……」

 素直に左手でそこを抑えて申告すれば、関宮先輩はやっとベッドの上から移動する気になったようだ。

「食事にしようか」

 彼は私を軽々抱き上げると、リビングに向けて歩き出した。

< 84 / 185 >

この作品をシェア

pagetop