一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
「お席にご案内いたします」
「うん。よろしく」

 今にも彼女を視線だけで射殺すのではないかと心配になるほど、剣呑な瞳をしている。
 このままここに放置し続けていれば、妹と口論になりかねない。

 ーーカフェ宇多見が満席に近い状態で、トラブルなんて起こしたら……。
 あっと言う間に近隣へ悪評が周り、閑古鳥が鳴くだろう。

 収入を失うのは困る。
 そう考えた私は、慌てて彼を空いている二人がけの席に誘導した。

「お決まりになりましたら、こちらのベルを使って……」
「ねぇ。さっき、厨房から出てきたよね?」
「は、はい……」
「これって、星奈さんが作るの?」
「それは……」

 カフェ宇多見が繁盛しているのは、ここを一人で切り盛りする妹に魅力を感じたお客様が、たくさん会いにやってくるからだ。

 ーー関宮先輩には、嘘をつきたくないけれど。

 ここで事実を伝えたら。
 その話を耳にした常連客を、失うことにもなりかねない。
 そんなことになれば、姉妹は露頭に迷うし……。
 私も陽日さんから激怒される。踏んだり蹴ったりだ。

 ーー今より傷つくくらいなら、現状維持のままがいい。
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