一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 何度か操作を終えた彼は、ため息を溢してから電子機器を返却した。

「SNSに投稿しようとしていた文章と、写真。削除したから」
「持ち主の許可なく、勝手に操作するなんて……!」
「それ、君にも言えることだよね。悪いけど、このまま帰ってくれる?」
「俺は客だぞ!?」
「警察に突き出されたいの?」
「く……っ」

 一般的な成人男性に比べて身長の高い関宮先輩が仁王立ちしているだけでも、後ろめたい気持ちのある常連客には恐ろしいと感じるようだ。

 彼には高校時代、暴れ回っていた荒くれ者とつるんでいた過去もあるし……。
 現役の消防士として、鍛えてもいる。乱闘になれば、男性客など一溜りもないだろう。

「わ、わかったよ! 黙って帰ればればいいんだろ!?」

 男性は捨て台詞を残すと、苛立った様子で店を出て行った。

 ーー後に残された私達の間には、微妙な空気が流れる。

「星奈さん。しばらくお店は、臨時休業にしよう」

 関宮先輩は自分以外のお客様がいないのをいいことに。
 出入口の扉に立てかけられたプレートを裏返して“close”に変更すると、伝票の裏に“臨時休業”と描いた紙を内側から窓に貼りつけた。
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