一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
『香月はあたしが狙ってたのに! もう二度と、連絡を取らないでよね!』

 連絡先を暗記していなかったせいで、彼との縁が途切れてしまったのだ。

「大好きな女の子の声を聞きたいと思って電話をかけたら、無機質な機械音が流れてくるの。結構、きついから」

 もしもあの時、電子機器を破壊されていなければ。
 こうして関宮先輩を悲しませることもなく、もっと早くに想いを告げて。
 幸せになれたのだろうか……?

「申し訳、ございませんでした……」

 ーーどれほど悔やんだところで、過ぎ去った時は巻き戻らないのなら。
 私達は未来に向かって、進むしかない。

「うんん。謝ってほしいわけじゃない。俺は星奈さんとこれからずっと一緒に暮らせたら、それだけでいいよ。他には何も、望まない」

 ーー私があなたに対して抱く気持ちを打ち明けることすら、迷惑って意味なのですか。

 そう問いかけたい気持ちをぐっと堪えた私は彼の胸元を強く握りしめると、帰宅するまで口を閉ざし続けた。
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