このヒカリの下を、もう一度君と

倒れた男はピクリとも動かなくなった。

「あ……、お、俺……」

刃物が涼太の手から落ちて固い音を立てた。

「涼、太……」

もう訳が分からなくなっていた。

何で、何で?
何があったの?

何でパパとママはいないの?
何でお姉ちゃんが冷たくて固くなってるの?
何でお姉ちゃんはいつもみたいに私を抱きしめてくれないの?
何でお姉ちゃんは私を呼んでくれないの?
何で、お姉ちゃん笑ってないの?

何で、
何で、
涼太は泣きそうな顔で、
手が真っ赤に染まってるの?

嫌だ、
もう嫌だ。

これは夢だ、
そう、夢なんだ。

目が覚めたらパパとママがいる。
お姉ちゃんは太陽みたいな笑顔で私を抱きしめてくれる。

涼太が私の手を引いて歩いてくれる。

そう、これは夢。

そう思って目を閉じて、
ゆっくりと開けるのに、
目の前の現実は変わらない。

「優奈姉……」

涼太がゆっくりとお姉ちゃんに近づいてくる。

「涼太……」

赤い、
涼太の手が、真っ赤だ。

何で?どうして?
どうして、涼太の手は赤いの?

「優奈姉……、何で……、
どうして……!!」

座り込んで震える手でお姉ちゃんに触れる涼太。

どれ程の時間が過ぎたのだろうか。
数分だったのかも知れない。
涼太は、お姉ちゃんに触れながら泣いていた。

涼太の涙が、
私を現実に連れ戻す。

お姉ちゃんは、
いないんだ。

パパとママも、殺したってあの男が言ってた。

パパもママもお姉ちゃんも、
殺されたんだ。

涙がとめどなく流れては落ちていく。

パパ、ママ、お姉ちゃん。
パパ、ママ、お姉ちゃん。

「やだ、
嫌だよ、
パパ、ママ、お姉ちゃん……!」

お姉ちゃんにすがりついて泣いた。

「陽奈……」

そんな中、涼太が私の名前を呼ぶ。

顔を上げると涼太が私に手を伸ばしてきていた。

「嫌……!」

思わず涼太の手を払い除けた。

「陽奈……」

違う、涼太が嫌なんじゃない、
涼太の手にまとわりついた、
あの男の血が、
嫌なの。
涼太じゃないの……!

そう言いたいのに声が中々出ない。

「違うの、違う……
涼太じゃなくて……」

「水川さん!?
どうし……、
きゃあぁぁぁぁー!!」

やっと絞り出せた私の言葉は近所の人の叫び声にかき消された。

その叫び声に近所中の人が集まってきた。

「涼太……!」

集まり騒ぐ人達に囲まれる中、涼太の名前を呼び必死に涼太に手を伸ばす。

だけど、大人達が涼太を連れていってしまった。

最後に見た涼太は、

見た事もない悲しく、絶望した顔で、
私を見ていた。






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